ジヒドロテストステロン(DHT)を抑える方法として、医薬品以外に食事やサプリメントに期待を寄せる方もいるかもしれません。インターネット上では、「亜鉛がDHTを抑制する」「ノコギリヤシが効く」といった情報も見られます。しかし、これらの食品や成分が、医学的にAGA治療薬と同等のDHT抑制効果を持つと証明されているわけではありません。その効果と限界について、冷静に見ていく必要があります。例えば「亜鉛」は、髪の主成分であるケラチンの合成に不可欠なミネラルであり、不足すると髪の成長に影響が出ることがあります。一部の研究では、亜鉛が5αリダクターゼの働きを阻害する可能性が示唆されていますが、人間においてAGA治療に有効なレベルでDHTを抑制するという確固たるエビデンスは現在のところ不足しています。ただし、亜鉛不足は味覚障害など他の健康問題にも繋がるため、牡蠣やレバー、赤身肉などから適量を摂取することは大切です。「ノコギリヤシ」は、北米原産のヤシ科の植物で、その果実エキスは前立腺肥大症の症状緩和に用いられることがあります。これも5αリダクターゼを阻害する作用を持つ可能性が研究されていますが、AGAに対する効果については、まだ科学的根拠が十分とは言えず、医薬品ほどの明確な効果は期待できません。その他、大豆イソフラボンや緑茶カテキンなどがDHT抑制に関連するという情報もありますが、これらも食品として摂取するレベルでAGA治療に匹敵する効果が得られるかは疑問が残ります。重要なのは、これらの食品やサプリメントは、あくまで「食品」あるいは「健康補助食品」であり、AGA治療を目的とした「医薬品」ではないということです。特定の成分を過剰に摂取しても、DHTを効果的に抑えることは難しく、場合によっては健康を害するリスクさえあります。バランスの取れた食事を心がけ、髪の成長に必要な栄養素をしっかり摂ることは、健やかな頭皮環境を保つ上で非常に重要です。しかし、DHTを確実に抑制し、AGAの進行を食い止めたいのであれば、現時点では医学的に有効性が証明されているフィナステリドやデュタステリドといった治療薬の使用を、医師の診断のもとで検討するのが最も現実的かつ効果的な方法と言えるでしょう。食事やサプリメントは、あくまで補助的な役割と捉えるべきです。
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