毛髪再生医療の分野で、最も大きな期待が寄せられている技術の一つが「幹細胞」を利用した治療法です。幹細胞は、様々な種類の細胞に分化する能力(多分化能)と、自分自身と同じ細胞を複製する能力(自己複製能)を持つ特殊な細胞であり、再生医療の鍵を握る存在とされています。毛髪再生における幹細胞治療は、どのような可能性を秘めているのでしょうか。私たちの髪の毛を作り出す毛包には、「毛包幹細胞」と「色素幹細胞」という2種類の幹細胞が存在することが分かっています。毛包幹細胞は、毛母細胞などの毛包を構成する様々な細胞を生み出す源となり、ヘアサイクルに応じて毛包の再生を繰り返しています。色素幹細胞は、髪の色を作るメラノサイトを生み出します。加齢やAGAなどによって、これらの幹細胞の数が減少したり、機能が低下したりすることが、薄毛や白髪の原因の一つと考えられています。幹細胞を用いた毛髪再生治療は、この失われたり機能が低下したりした幹細胞を補充したり、活性化させたりすることで、毛包の再生能力そのものを回復させようとするアプローチです。現在、研究や臨床応用が進められている主な方法としては、まず「自己毛包幹細胞を用いた治療」があります。患者さん自身の後頭部などから健康な毛包組織を少量採取し、そこに含まれる毛包幹細胞を体外で培養して増やし、薄毛部分の頭皮に注入または移植する方法です。これにより、既存の毛包を活性化させたり、新たな毛包の形成を促したりすることが期待されます。また、「脂肪由来幹細胞」を利用する方法も注目されています。自身の脂肪組織から採取した幹細胞(間葉系幹細胞)には、血管新生を促したり、様々な成長因子を分泌したりする能力があり、これを頭皮に注入することで、毛包周辺の環境を改善し、発毛をサポートする効果が期待されています。さらに将来的には、iPS細胞(人工多能性幹細胞)などを用いて、毛包そのものをゼロから作り出し、移植する「毛包再生」の研究も進められています。これが実現すれば、毛髪を完全に失った場合でも再生が可能になるかもしれません。幹細胞を用いた毛髪再生治療は、まだ研究段階で安全性や効果、コストなど課題もありますが、毛髪の悩みを根本から解決できる可能性を秘めた、将来有望な治療法として大きな期待が寄せられています。