まさか自分が、というのが最初の正直な感想だった。まだ30歳になったばかりの頃だ。父親は確かに若い頃から髪が薄かったが、自分は大丈夫だろうと、どこか根拠のない自信があった。異変に最初に気づいたのは、行きつけの美容室でのことだった。「あれ、〇〇さん、最近シャンプー変えました?なんか、抜け毛がちょっと多い気がしますね」と美容師さんに言われたのだ。その時は「そうですか?まあ、季節の変わり目ですかね」と軽く流したのだが、その一言が妙に心に引っかかった。それからというもの、シャンプーの時の排水溝や、朝起きた時の枕を意識して見るようになった。すると、確かに以前より抜け毛が多い気がする。しかも、よく見ると、細くて短い毛が混じっている。これはまずいかもしれない…。焦ってインターネットで「抜け毛 多い」「若ハゲ」などと検索すると、「AGA(男性型脱毛症)」という言葉が目に飛び込んできた。症状のパターンを見ると、自分の額の生え際が、なんとなくM字っぽくなっているような気もする。スマートフォンで過去の写真と見比べてみると、その変化は明らかだった。ショックと同時に、「やっぱりか…」という妙な納得感もあった。それからは、人の視線が常に自分の額にいっているような気がして、外出するのが少し億劫になった。帽子をかぶる機会も増えた。このまま薄毛が進行していくのかと思うと、夜もなかなか寝付けない日があった。しかし、悩んでいても仕方がない。インターネットの情報だけでは不安ばかりが募る。意を決して、皮膚科のクリニックに相談に行くことにした。医師の診断は、やはりAGAだった。診断された瞬間は落ち込んだけれど、同時に、原因がはっきりしたこと、そして治療法があることを知り、少しだけ光が見えた気がした。そこから治療を開始し、時間はかかったけれど、今は進行も落ち着き、以前のような深刻な悩みからは解放された。あの時、美容師さんの一言がなければ、もっと気づくのが遅れていたかもしれない。そして、勇気を出してクリニックに行って本当に良かったと思う。もし、少しでも髪の変化に気づいたら、見て見ぬふりをせず、早めに行動することが大切だと、自身の経験から強く感じている。