AGA治療を始めた矢先に起こる初期脱毛。「髪を増やしたいのに、なぜ抜けるのか」という疑問と不安は当然のものです。しかし、この現象の裏にある、髪の毛の成長サイクル「ヘアサイクル」のメカニズムを理解すれば、初期脱毛が治療効果の現れ、つまり「効いている証拠」であることが明確に分かります。私たちの髪の毛は、一本一本が独立した周期で成長と脱毛を繰り返しています。この周期は、主に三つの期間から成り立っています。一つ目は、髪が太く長く成長する「成長期」(通常2〜6年)。二つ目は、成長が止まり、毛根が縮小していく「退行期」(約2週間)。そして三つ目が、毛根の活動が完全に停止し、脱毛を待つだけの「休止期」(約3ヶ月)です。健康な頭皮では、全体の約90%の髪が成長期にあり、力強く育っています。しかし、AGAが進行すると、男性ホルモンの影響でこのヘアサイクルが著しく乱れ、最も重要な「成長期」が数ヶ月から1年程度にまで短縮されてしまいます。その結果、髪は十分に成長できず、細く短いまま退行期、休止期へと移行し、抜け落ちてしまうのです。これが、薄毛が進行するメカニズムです。ここに、AGA治療薬が作用します。例えば、ミノキシジルは休止期にある毛根に働きかけ、再び活発な成長期へと移行するよう促します。また、フィナステリドやデュタステリドは、成長期を短縮させる原因物質の生成を抑制し、乱れたヘアサイクルを正常な状態へと引き戻します。薬が効き始めると、AGAの影響で本来よりも早く休止期に入ってしまっていた、いわば「質の悪い髪」の毛根が、一斉に「新しい健康な髪を生やすぞ!」と活動を再開します。すると、新しい髪が毛穴の奥で生まれ、成長を始めると同時に、その上にまだ残っていた古い休止期の髪を押し出します。この「世代交代」が、短期間に集中して起こるため、一時的に抜け毛が急増するのです。つまり、初期脱毛で抜けているのは、いずれ近いうちに抜け落ちる運命にあった、弱々しい髪です。その下では、未来のあなたの髪となる、力強い新芽が育ち始めているのです。この仕組みを理解すれば、初期脱毛は恐れるべき現象ではなく、むしろ歓迎すべき変化の兆しであることが分かるはずです。